豊中市は自転車通行空間整備について独自の進め方をしています。その方針は3年前に出された『自転車通行空間整備の考え方』( 以下『考え方』と略)に示されています。
¶ このドキュメントによれば、自転車通行空間整備は、幅員の確保できる路線(市道)が市内には乏しいことと、安全確保の点から街渠の整備を踏まえる必要がある、としつつ、まずは試験的な整備を行って検証・検討を進めてゆこうとあります。
各地で繰り返される、ただの路面ペイントに終始した「整備」と違って、豊中市は一定のインフラ整備を前提に通行空間整備を捉えているようです。『ガイドライン』の表面的な基準値に沿った計画策定と整備を諾々と進めている自治体とは違い、自分で考える姿勢の伺える豊中市に、筆者は好感を持っているのですが、今年の施政方針に「全市的なネットワーク計画の策定に取り組む予定」とあるのを見つけるにつけ、その行方を見守りたく思っています。
東豊中線は、その試験施行が行われている3路線の一つ。阪急豊中駅前の国道176号を少し入ったところの交差点から北東方向にゆっくりと坂を登る路線です。西南端は行き来の激しい交差点ですが、坂を上がってゆくと戸建てとマンションの混在する住宅地区に入り、やがて台地にあがって道は平坦になります。終端は他の幹線路とはつながらないまま果てているので、通過交通の少ない、どちらかと言えば地域利用主体の交通になっていると思われる道です。坂の途中にはスーパーや神社があり、終端付近には府立高校や私立の女学校があります。住宅地・スーパー・学校と、歩行者や自転車ニーズの高そうな要素が揃っています。
この路線は、車道混在型の整備路線として、左端部の路面へピクトサインの表示が行われています。大阪府で標準の「矢羽根+ピクト」とは異なった形式です。
なおこの路線は東西でコンディションがかなり異なります。
路線の北東部(坂上)
北東側の約半分は道路改修が施されていて、見るからに走り心地の良さそうな滑らかで、かつ路肩までフラットな路面になっています。
排水機能を備えたエプロン部の小さい縁石部材で施工されているおかげで、路肩の勾配は解消されています(『考え方』にある改善対策とは直接関係はないよう)。
これに対して坂下の西南部は、傷みの進んだ路面が続きます。
西南部でも改修工事が始まったところでした。
¶ この路線は『考え方』では「H27度に効果検証」とあるのですが、音沙汰がないなと思っていたら「現在取りまとめ中」とのこと(市議会3月定例会より)。
ですが議会での質問に答える形で、施行の前後の歩道通行割合の変化等が報告されています。
答弁によると、実施の前後で歩道通行の割合は52%→37%に減少(つまり車道通行率は48%→63%へup)とのこと。 また車道の左側走行の遵守率が施行の前後で82%→89%に上がったそうです(母数、測定日等詳細は不明)。
この路線の区間別のコンディションの違いを想うと、報告の数字が路線のどの箇所で取られたのかはっきりしないのがいちおうは気になりますが、現地で目にした限りでは車道通行の割合に道路の北東側部分、南西側部分とで差異はとくに感じなかったのも事実でした。
これは結果をだしている数字、なのでしょうか。
議会答弁では「効果はあるものと考えている」と都市基盤部長は答えておられます。
¶ この東豊中線は、全般に流れは激しくはないものの、決して静かともいえない補助幹線です。バス道でもあります。速度規制も40km/hですから高くはないものの決して低い方でもありません。
この歩道はもとより「自転車通行可」ではない
手前のピクトはなぜか消去されています
都市基盤部長による報告の数字をあらためて掲げます。
実施前 実施後
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〇歩道通行割合 52% → 37%(∴車道通行率48%→63%)
〇車道左側走行遵守率 82% → 89%(∴逆走率18%→11%)
これらの数字は、この路線の利用者が「通行空間」整備の以前からかなり高い(少なくとも結果として)レベルに至っていたことを示しています。とくに車道左側走行の遵守、つまり逆走の抑制については相当なレベルです。
現地へ行って観察されたことの一つは、路上駐車をほぼ見かけなかったことでした。路駐の有無は、車道通行型の自転車通行空間ではその成否を左右する最も大きな要因と言って過言ではないでしょう。
そしてもう一つ気になるのは高校の存在です。路線の近くにある2高が、何らかの自転車利用の指導をしているとすれば、少なからぬ効果が考えられます。これには金沢の取組みが有名ですが、隣の吹田市にある吹田東高校(参考)を例として挙げておきます。ここでは生徒たちの行動変容が、地域住民の行動にも影響を及ぼしていると見られます。つまり通行空間整備と学校指導の連動は、地域にも影響をもたらすことができるようです。
この地域でももしかすると同様の現象が起きていた?のでしょうか。
もしこの2つが要因とされるなら、ピクトサインの表示という「整備」の影響は、ごく限定的なのかもしれません。もちろんピクト表示の後でも数字は向上しているのですから、効果の「ある」のは確かなようですが、実施前の数字が高いだけに、 当該路線については補助的な要素なのではないかという気が拭えません。
ただし、路面コンディションの違いが大きいにもかかわらず、車道利用度の違いが感じられなかった(現地観察の限りですが)印象については課題として残ります。ピクト表示には路面コンディションのハンデを超えて利用者を車道へ導く力があるのでしょうか?
しかし、報告の数字が路線のどの箇所で取られたのかがわからないので、今のところは掘り下げようがありません。
以上はごく個人的な、限られた材料での考察です。学校の指導については想定の域を出ませんし、取組みの時期が不明です。駐停車を見かけなかったのも、或いは訪問時だけのことだったのかもしれません。地域の方々の利用意識が、もとよりほんとうに高いのかもしれませんし、ピクトサインがあってこそ高い利用率が維持できているのかもしれません。
¶ なので筆者としては当面「とりまとめ中」という市の検証結果の公表を待つばかりです。測定箇所別の計測が行われているとしたら、その数字など見てみたく思いますし、学校や地域との取組みなどがあったなら、合わせて明らかになるのを期待します。
ただ筆者の見解の如何に関わらず、この路線の「成功」がどういう条件で成り立っているのか、豊中市民(および豊中市のパブコメに意見提出可能なステークホルダー諸氏)はよく見据えていただきたく思います。この路線が「ピクト整備の故に成功」であると市に捉えられることは、豊中市にも他市と同様の路面ペイントONLYの整備に正当性を与えてしまうことになりかねないのですから。
¶ 車との混在がたとえ『ガイドライン』上許容されるとしても、特段に平穏でもない準幹線道路における通行空間整備には、路面ペイントに留まらない安全対策(および安心対策)が求められるべきかと筆者は思います。
たとえば、規制速度の更なる低減(40km/h→30km/h)か、何らかの速度抑制策、バス停のバスベイ化推進、自家用車利用の削減策等と合わせて進められることを要望してゆくべきではないでしょうか(どれもハードル高そうで、寝言の誹りを頂きそうですが)。
当記事は市のもう2ヵ所の整備路線(阪急西側北線と阪急東側線)の観察記と合わせてpostするつもりでしたが、思いのほか長くなってしまったので、また別の機会にといたします。ただし前回から1年余り経っての投稿ですから、次もいつになるやらわかりません。
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