¶ この、なんば(御堂筋)の自転車道には、前編で指摘した交差点前での歩道乗り上げに留まらない走路遵守阻害要因があります。それは、この自転車道の屈曲した線形です。
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『御堂筋の道路空間再編に向けたモデル整備』(大阪市建設局)より抜粋・加工
この自転車道は整備地区の南端では、この先にある横断歩道の手前の約10m付近で急に大きく向きを曲げて歩道に合流させています。 この線形が自転車利用者の動線に大きく影響しているだろうということは、図を見ても想像に難くないでしょうし、現地に身を置いてみれば、まさしく一目瞭然に看てとれます。
¶ この付近は、道なりに進むと戎橋商店街や日本橋の電気街方面に出、横断歩道はバス停の集まる交通島とその先に控える百貨店や私鉄のターミナルをつないでいます。
走路を拒むように植栽が立ちはだかります。 先の横断歩道前で滞留する歩行者の群れの中に自転車を突入させてはならない"、という意図でしょうか。
¶ ここに、筆者が発作的に行った走路遵守状況の調査結果を示しておきます。自転車道の両端にて、各3分の動画撮影を2回づつ行い、自転車が自転車道部分を通っていたか否かを方向別にカウントしたものです。 計測日時:2017/5/22(月) 概ね16時代
上の表を集約して其々の割合を付加したのが下の表です。
表の「内」とあるのが、自転車道部分を走った、つまり自転車の通行部分を遵守した自転車の数とその割合になります。また、橙色の枠は自転車道整備区域の外からそこへ差し掛かった自転車を、紺色の枠は自転車道整備区域から外へ出てゆく自転車を示します。ここでは
橙色 = キャッチ率、紺色 = ホールド率
と名前付けしておきます 。
¶ 南北それぞれ計6分という短い時間ですし、途中の交差点や細街路への出入りを配慮していない単純簡易なカウントに過ぎません。
なのでほんの参考値に過ぎないことは十分承知のうえで、それでも一応の傾向は出ているものとして観察しておきます。
まず南端のキャッチ率は25%と予想の通り低い数字です。実に4台のうち3台が自転車道を無視しています。北端でもキャッチ率は57%と芳しくありません。
一方でホールド率の方はまずまずの数字でしょうか。とくに南端のホールド率が75%もあったのが意外です。
北行き南行きを合わせた全体の走路遵守率は57.5%と、厳しい数字です。
概して自転車のキャッチに苦戦していて、全体の数値を押し下げています。ただし、ここはそもそもネットワーク化されていない単独の自転車道ですので、さしあたってここでの掘り下げは控えたく思います。
一方でホールド率は意外な高さを示しています。北行きで80%と少し、キャッチでは4台に1台しかなかった南行きでは逆に4台に3台が走路を遵守しています。
自転車道には、利用者に多少の不利(経路延長の増加)があっても、利用者を引き寄せて拘束する特質があるということでしょうか。
惰性もあるのでしょうが、自転車道が設置の意図の通り歩行者に邪魔されず、走路が排他的に確保されれば快適性はより高まります。そのため経路がいくぶん長くなったとしても、利用者に即座に不利とは捉えられなくなります。自転車道の線形が必ずしもA地点-B地点を短絡する直線でなくてもいいことはある程度までは言えるでしょう。
ではこの自転車道の設計者は、この線形でも走路の快適性が、経路の不利を補えると想定したのでしょうか。
¶ しかし上の調査結果に依るなら、この自転車道のしゃくれ線形は、そうでなくても低いキャッチ率を、この線形のために半分以下に落としてしまったことになります。
この線形は避けられないものだったのか。 筆者はこの線形の意図を推測する知識も関連事情も持ち合わせておらず、推測を巡らせるよりありません。
設計においてまず植栽/緩衝帯が線引きされ、そこから自転車道の線引きをした、というような"簡単な"理由でしょうか。
とすると、この南の横断歩道前への植栽ですが、敢えてここに設けねばならない規定なり基準なりがあったのでしょうか。この植栽については横断歩道脇への自転車の突入の回避を計った、という観点も拭えずにいます。
或いは、歩行者空間を最大限確保するために、自転車走路が歩行者空間を分断するのを避けたのでしょうか。
この走路のしゃくれ部から北数十mの間は、この整備区域のなかでもとくに幅員が潤沢な部分です。であれば設計者は尚更、確保できた空間が、自転車のために分断されることに抵抗があったのでしょうか。
いずれにせよ、しかるべき意図なり配慮なりがあったのだとして、自転車のビヘイビアがどのような影響を被るかについて、どの程度考慮されたのでしょう。
走路の快適性が、経路の不利を補えると想定したのでしょうか。
或いはもし、
全体として歩行者/自転車の空間が格段に広くなって、歩行者との錯綜が減っているのだから、"多少のとりこぼしはあったとしても構へんやん"というほどの認識だったとしたら全く話にもなりません。
御堂筋の側道空間の再配分は、長年の懸案だった個所にて、歩行者と自転車との錯綜を解消して全体としての安全性、快適性を高めることが主たる目的の一つでしたから、やはり厳しく評価されて今後につなげてほしく願います。
¶ 筆者は自転車の利用環境について、少なくとも幹線路や利用の多い区間では、可能な限り構造分離型での整備が進められるべきだと考えています。自転車が年代・性別を問わず普及して、かつ手軽に利用されている日本の利用状況に応えるのは、まずもって安全と安心を保証する質の高いインフラです。
この国では財源のみならず空間確保のハードルが、諸外国に比べて格段に高いという事情は認めるに吝かではありませんが、であればこそその貴重なリソースが、設計の貧困によってロスしているとしたら返す返すも残念なことです。
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