万博外周道路 自転車を置き去りにした自転車道改修(前編)

'70年の大阪万国博覧会会場跡は現在、公園となって残っています。万博外周道路(主要地方道 茨木摂津線の一部)とはこの公園を環状に取り巻いている道路の通称です。この外周道路に付設されている自転車道について書いてみます。  

 全長5.1km、片側集約の双方向型、基本幅員は何と5メートルという、国内では比肩例の思い当たらない(※)高スペックの自転車走行路です。※強いて言えば大野川緑陰道など 

 

 この自転車道の一部に今年、改修が施されたのでした。下はそのビフォー・アフター。

 

左:改修後('19年5月)、右:改修前('17年2月)

 

 自転車道部分の幅員を削って歩道に割り当て直すという、とても珍しいパターンの道路空間再配分です。5メートルあった自転車道の幅がは3.5メートルに狭められて、歩道の拡幅に充てられたのでした( 竣工は今年3月頃?)。 

 3本並んでいた車止めが1本に減っているのはイイ感じです。長年消えるがまま放置されていたセンターの白線も復活しました。構造上、向って左に偏っていた信号機が、ほぼセンターの位置になったのも、視認されやすくなっていると感じます。「自転車が従うのは3灯の交通信号機だろ!」という指摘を頂戴するかもしれませんが、自転車専用の信号機が正式化していない現状では著しく妥当性を欠く処理ではないし、これがために実際上の問題が生じているという話も聞きません。

 

 なお、改修区間ではなぜか撤去されていますが、この自転車道に立っている転車専用標識(325 の2:右写真)には公安委員会のラベルが見当りません。 なので標識が示すのは、「歩行者の皆さん、自転車が通るのでよろしくお願いしますね」という道路管理者(大阪府)からのお願いに過ぎず、自転車がこの通行空間を排他的に利用できるわけではないということになります。 つまりこの堂々たる構造分離型走行路も、法的には歩道であると見られます。こうした規制実態も、消極的ながら先述の歩行者用信号での運用の妥当性を裏付けるでしょうか。ですが一方で、改修以前より歩道部には「自転車通行可」の標識はなく、その点では専用道的運用がされているとも言え、この辺りは何とも曖昧です。

 

 あと、街路樹(欅)が改修区間の全てに亘ってバッサリと伐られました。人間の都合で植えられたり伐られたりする樹木が気の毒でなりません。本来空間確保が優先されるべきところに習慣的に設置されてきた街路樹・植栽も、今後はもっと慎重に検討されてほしいと願います。 

 

 雑感はまた後で続けるとして、まず問いたいのはこの空間再配分の是非です。この歩道拡幅は『万博記念公園周辺エリアの魅力向上』という大阪府の事業によるもの。『平成30年度 交通道路施策のポイント』で提示された諸施策の一環。

 

大阪府資料『H30度 交通道路施策のポイント』より抜粋

上図「整備イメージ」拡大

狭められてもなお3.5mの幅員。路面標示は特別仕様(前輪がサッカーボールのデザイン)のピクトサイン。  

点字ブロックと並行して表示された青色のラインは、モノレール駅(公園東口駅)からスタジアムへの誘導を意図した法定外表示(こちらは吹田市の負担による施工)。

 前方奥に見えている建造物が「パナソニックスタジアム 吹田」  

 

 今回の改修は3期からなる計画のうちの1工区目。外周道路沿いにある「パナソニックスタジアム吹田」への観客の主要動線とされるモノレール駅からスタジアムに至る区間が優先されたようです。

 

 さて自転車道の幅が狭められたなどというと、ただでさえ希少な自転車道に何ということを、実に嘆かわしい行政の自転車軽視だと目を吊り上げる方もおられるかもしれませんが、この自転車道はきわめて特異な例で、狭められたこと自体は悪いことではないと筆者は見ています(尤も、自転車軽視には違いないのですがその旨は後述します)。

  この外周道路へは自転者以外にもランニングに散歩に人々がやってくるのですが、ここではそうした人たちの大部分が、自転車道の方へ入ってきてしまうのです。そのおかげで、歩道は誰も通っていないという様子が各所で見られます。自転者を歩行者から分離して両者に安全快適な環境をもたらす切り札であるはずの自転車道が、錯綜を生じているというのは残念なことです。

 そしてその主たる要因は、自転車道の幅員が広すぎることと、その歩道とのバランスの不適切にあると思われます。 

 

 一般に、私たちが思い当たる自転車道というと、いつも「もうあと少し幅が」という物足りなさを感じるケースが多いのではないでしょうか。 

自転車道例 大阪府堺市
自転車道例 大阪府堺市
自転車道例 京都市七条通
自転車道例 京都市七条通

 

 上の例などそれぞれ2m前後の幅員しかないのに対して、この万博外周道路では基本幅員5メートルと、その倍以上の幅があります。これに幅約2.5mの歩道が自転車道の外側に付きます。つまり歩道部1に対して自転車道部2という横断構成。

 歩道部には植樹桝が設けられています。植樹は街路を緑化してくれるわけですが、とうぜん通行幅を狭めます。植樹枡を差し引いた実際に通行できる幅(有効幅員)は1.5mほど。歩けないわけではないですが、たとえばランニングをするには相当に厳しい条件ですし、ベビーカーを押して来たという場合など、すれ違いが気になりますし、また植樹の根上がりによるガタツキが各所で進んでいます。 

 

 植樹枡のおかげで有効幅員ベースでは、歩道と自転車道の幅員構成比は1対3以上になります。さらに植樹に枝が張って葉が繁ってくれば、視覚的にはもはや何らかの補助的なスペースに過ぎなくなってしまうでしょう。そうして歩行・通行空間としては認識されなくなってくるのだと思われます。

  この外周道路は、それ自体が万博記念公園という巨きな緑地の中にあるので、沿道に接する民家や商店が極めて少ない。また全体が高台に位置していることもあって、快適な走路ではあっても、地元の学生らを除けば、通勤などの経路としての利用度はあまり高くないようです。なので全般的に見て、ここではサイクリングやランニング、またペットを連れての散歩など、余暇的動機で利用される割合が高いように伺えます。 

 そのような人々がここへやってきたとき、歩道のすぐ隣にこれに代わるスペースあるわけです。 歩行者やランナーらが、歩道ではなく自転車道部分に入ってこられてしまうのはムリもないことであり、 むしろ格好のランニング・ウォーキングコースと見なされてさえいるようです。法的にも歩道なのですから、自転車道部を歩行なりランニングなりしたところで取締りに遭うこともありません。 

  付け加えれば、私たちの周りに自転車道の実例が少なく、自転車が一定の空間を専用するという観念が薄いこと、歩道を白線で区画した自歩道(なかなか区分が尊重されない)と同類と捉えられかねないことなど、自転車と歩行者が空間を供用することに疑問や抵抗をあまり感じない素地が私たちにあること。また、この自転車道部分が必ずしもコンスタントに利用されるほどの通行量でないことも、歩行者が自転車道部分に進入するハードルを低くしている要因かと思います。 

 

 現在、改修された区間では、自転車とランナーなど歩行者との分離が格段に進んでいるのが確認できます。現場に身を置けばごく自然に了解できることなのですが、この万博公園外周道路の自転車道は、自転車道の幅にも適切な値があること、それは通行量や周辺状況とのバランスによるのだということを示唆してくれる貴重な例なのではないでしょうか。 

 ただ、以上の効果はあくまで結果で、改修は決して自転車と歩行者の錯綜の解消・減少を意図したものではなかったことはあらためて確認しておきたい。改修の主たる目的は、Jリーグチーム「ガンバ大阪」のホームであるスタジアム(Panasonic Stadium Suita/市立吹田サッカースタジアム)を訪れる観客・サポーターらの利便向上だったことは、改修がスタジアムへの主導線と思しいモノレール駅からスタジアムの間の区間(1工区)からの着手となっていること、全体の改修計画も、外周道路の全てではなく、南半分に留まること、改修された歩道への誘導表示という法定外表示(それも「チームカラー」という、特定の民間事業者に付随するもの)が容認されていること、改修区間にあっても自転車道は幅が狭められたのみで路面の打ち直し(および歩道反対側の縁石の更新)から除外されていること、などから明らかでしょう。 

 吹田市が負担したとある歩道上のブルーのライン( スタジアム周辺整備事業)は、Panasonicから市へ寄付があったとのことで、つまり市はまったく腹を痛めていないらしい。 

 

  「万博公園エリアへの魅力向上」と称した事業は、すなはちJリーグなど知名度も高いビッグビジネスを盛り立てるためのものに他ならなかったようです。万博外周道路の自転車道は今も可能性を秘めた昭和のレガシー。そのせっかくの改修が自転車を置き去りになされている様子など、改修にあたって気になった事、また気になっていた事について、引き続き取り上げてみます。続編、近日アップ予定。