またも久々の更新です。
大阪府が自転車の通行環境整備計画の策定を進めています。『大阪府自転車通行空間10か年計画(素案)』(以下『素案』と略)がこの2月にアナウンスされ、現在パブリックコメントの募集が行われています(府HP⇒ 府政情報 報道発表資料 )。
すっかり期日(3月25日)が迫ってきましたが、自身の内容把握も兼ねて書いておこうと思います。
本編文書は、目次込みでも計11頁というごく小ぶりのものです。
つい先月に東京都が公表した『東京都自転車活用推進計画(素案)』が計28頁だったですから何だか見劣りするようにも見えますが、東京都の計画は自転車に関する包括的な取組みをまとめたもの。対してこちらの大阪府の計画は自転車の通行空間という、通行環境整備に限定したもので、双方は性質の異なる計画です(下の図は概要版)。
計画の内容は、府が3年前に策定し実施している『大阪府自転車通行空間整備緊急3か年計画』(以下『緊急3か年計画』と略)の期限を、平成2025年度末まで延ばし、整備延長も60kmから約200kmへ拡張します、というごくシンプルなものです。内容的にはおよそ以下の3点がポイントでしょうか。
- 整備延長を62kmから約200kmへ拡張(計画年度を2019年度から2025年度へ延長)
- 策定は府条例「大阪府自転車安全で適正な利用の促進に関する条例」に基づく
- 整備手法は「車道混在」に限定される
前回の当ブログでも書いたように、大阪府(茨木土木事務所)の手がけた通行空間整備は少なくとも筆者から見て「通行空間整備なき」通行空間整備でした。その大阪府の計画なので、利用者を無謀な車道通行に誘導する施策の更なる加速化では、という懸念は避け難かったのですが、残念ながらそのバイアスを払拭する内容ではありませんでした。
『素案』では通行空間整備の経緯を以下のようにまとめています。
「1.はじめに」より抜粋
大阪府内の近年の自転車に関する事故件数の推移を見ると、自転車関連事故件数は減少傾向にあるものの全国的には高い水準であり、平成27 年中の自転車事故の死者数は50 人に達し、全国最多となった。
このような状況を踏まえ(中略)、「大阪府自転車安全で適正な利用の促進に関する条例」を(中略)施行した。本条例では、府の責務の一つとして、道路交通環境の整備に努めることとしており、平成28年10月に「大阪府自転車通行空間整備緊急3か年計画」を策定し、スピード感のある自転車通行空間の整備を目的として、自転車関連事故の多い箇所や自転車交通量の多い個所などを対象に、平成30年度までの3か年で路面標示による自転車通行空間整備を進めてきた。
自転車事故での死者数の増加状況を受けて府は条例を制定、続いて府はその規定により通行空間整備に取り組んだとしてます。たしかに平成27年は23年以降で最悪の死者数をだした年で、そうした状況を受けて、条例制定につながった委員会が立ち上げられ、続いて自転車通行空間整備へと対応が進められたように伺えます。
ただ、事故件数はそれ以前からの減少傾向をたどっており、死者数も翌28年、29年とも31人とそれまでの減少傾向に戻っています。ちょうど兵庫県が自転車利用者への保険加入義務化を盛り込んだ全国で初めての条例を制定(※)したところで、府の委員会は兵庫県のと同様の条例制定を当初から着地点として想定していたようです。条例制定も『緊急3か年計画』も、死者数の増大と兵庫県での条例制定を追い風に自転車への対応強化を図ったという経緯が伺えます。
(※)9500万円の損害賠償判決が出た神戸地方裁判所の判決は平成25年7月。
それでも経緯はどうあれ、対策が事故数・死者数の減少につながっているなら、文句の言いようはないのですが、しかしながら平成27年以降の事故の減少・鎮静化に『緊急3か年計画』は奏功したのかどうかは不明です。
『素案』は、先行している『緊急3か年計画』が依拠したところの先行整備区間(平成25~27年度)10kmの「実績」で既に効果は示されているとしているようで、通行空間の緊急整備と整備路線の拡張をつなげるストーリーは示していません。
『 素案』 3.1.2 大阪府の自転車通行空間の整備 より
大阪府自転車条例施行を契機とした大阪府自転車通行空間整備緊急3か年計画では、整備による効果を示し、自転車と歩行者の安全確保のため、「自転車関連事故や自転車交通事故が多い区間」または「警察が選定した自転車指導啓発重点地区および路線」のうち、空間に余裕があり、早期整備が可能な区間で平成28年度から平成30年度までに約60kmの自転車通行空間を整備することとした。
もはや規定の手法で粛々と推進するのみという姿勢なのでしょう。下はその効果を示したという資料です。
どの路線も矢羽根による車道混在型の通行空間。そして、ここに示されているのは、通行空間整備によって「車道通行」「車道逆走」の割合がどう変化したかという自転者の行動変化であって、事故減少につながったのかどうかを示すものではありません。必要なのは整備路線単位での事故発生状況の把握です。
そもそも、日数や計測時間、計測箇所も明記されない資料性の危うい結果提示です。その結果数値も、数値の上昇度のバラツキが大きく、大阪高槻京都線のように、車道通行が尚10%に留まった路線もあります。表中の「5分超え駐停車割合が減少」は大阪市からの借用で、表では省かれていますが、駐車台数は確かに減少したものの、停車台数を合わせた台数ではほぼ横ばいで、休日ではむしろ増大という結果(車利用者は駐車から停車へと「対策」をとったのだろうと推察される)で、全体としては駐停車への影響は極めて限定的な結果となったものです。
本来はこれを踏まえて改良・見直しをはかるとすべき結果かと思うのですが、けっきょくこれが「効果」として示されている格好です(【参考】の表記がせめてもの良心か)。緊急整備のスタートした3年前の時点ならまだしも、現段階で整備手法の検証がないまま計画が拡張されるというのは、府下の自治体をリードする公共団体としてもいかがなものかと思うのですが、これはいま全国で進行している事態でもあります。自転車は車道通行こそが安全であり事故も減るのだという考えが、こうして都合よく捉えられています。
整備路線の事故発生状況がなぜないのか府へ問い合わせたところ、応対された方は「警察との連絡とかあるので...」と言葉を濁すのみ(それがお仕事ではと思うのですが)。ただ、上記調査は府職員によるものとのことなので、せいぜいパブコメで詳細開示を求めたいものです。
当『素案』は、形式的には府の条例(『大阪府自転車安全で適正な利用の促進に関する条例』)の規定(第二条3項)によるものとされます。各地でほぼ同じ内容で制定されているこの条例には、自転車についての課題を利用者側の負担や行動規制の強化で図ろうとする施策が並びますが、なかでも大阪府のそれは「自転車利用者は、自転車が交通の危険を生じさせるおそれのあるものであることを認識し」という文言が入っており、管理・懲罰的姿勢が目立ちます。
一般に、これまで自転車施策が先行した自治体では、自転車政策の柱となる理念的部分とインフラ整備の部分はセットで検討、立案されていましたが、大阪府の自転車施策は、そうした土台の部分を欠いたまま、インフラ(通行空間)整備計画が単独で立案された格好です。条例の性格と上位計画の不在は、『素案』を自転車についてのポジティブで総合的な観点・理念を欠いたものに、またクリアしたい改善目標のない計画としてしまっています。
このような成り立ちでは、単に整備延長の消化が目的化してしまうのが懸念されます。目標値がないことと、先に見たように効果検証もされていないので、いったい整備延長200kmがどういう必然のある数字なのか、評価のしようもありません(※)。また、整備延長の妥当性を別にしても、先の『緊急3か年計画』の計画60kmに対する現時点の整備実績33kmという現状をみるに、期間および延長を単純に3倍弱にした10か年整備計画の実現性はどこまであるのか、『素案』にはその実行を担保する内容は見当りません。
※「大阪府警の「自転車関連事故や自転車交通事故が多い区間」または「警察が選定した自転車指導啓発重点地区および路線」を基とする旨記されていますが、独自の選定を放棄した何だか投げやりな感も拭えず。また東京都(警視庁)がオリンピックを契機にナビライン整備を推し進めているように、単に2025年開催の大阪万博を目途にという意図でしょうか。
下は、整備形態を示した図です。計3つの整備形態が示されています。
自転車施策の文書では定番ともいえる図なのですが、実は変則的な図になっています。表の三つ目の「③自転車のピクトグラムのみ」は、独自の整備形態というより「②車道混在」の派生的形態です。ペイントの仕様が異なるだけで、路肩の路面標示による通行空間整備であること、車や二輪など一般車両に対する通行規制を伴わないという点でも②と同じで、「②車道混在」のバリエーションとして示すべきものではないでしょうか。
①,②の名称が機能を表すのに対し、③のみは視覚面を表す名前であるところにも、とって付けたがための違和感が現れています。車道混在なのにその機能がはっきり伝わらなくなる点でネーミングにも問題ありです。
現在の日本における自転車インフラ設計の基本文書の一つである国交省の『ガイドライン』(安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン)では、自転車通行空間の整備形態として、
①自転車道
②自転車専用通行帯
③車道混在
の3つを掲げています(右図参照)。つまり大阪府の『素案』では、「自転車道」という整備形態が最初から除外しているのです。
この点について『素案』は何ら説明をしていません。車道混在の派生形態でしかない「③自転車のピクトグラムのみ」をわざわざ挿入したことと併せて見ると、図5はかなり作為的な図であることが伺えます。
基礎自治体とは違って、府が受持つのは基本的に地域の幹線道や主要幹線です。とりわけ大都市の府県として国道に匹敵する重幹線も多く担う大阪府の通行空間の整備方針として、構造分離型のインフラが最初から想定されないというのは、極めて重要な点です。
なお、府の自転車計画は、自転車通行空間整備の実務要領である『大阪府自転車通行空間法定外表示実施要領』がガイドライン準拠であること、「国の動き」として国交省や警察庁の動向を表にまとめている(P.5)ことから、けっして自前基準での自転車施策ではなく、原則国の施策に沿った取組み姿勢であると見られます。
である以上は、ガイドラインの基本的な設定を変更運用するにあたっては、それが必要とされる旨を誠実に記載する義務があるはずです。
下は整備形態の選定フローとして『素案』が示すフロー図です。
この簡略なフロー図(でも条件分岐が2ヶ所なのになぜか1つ)が示すのは、たとえ車道に1.5m以上の幅員余裕がある道でも、警察によって却下されることがあること。施策を進める府職員らにとっては、警察協議こそが行方を左右するもので、他は事務的に淡々と進むばかりだという感覚でしょうか。
これは自転車専用通行帯整備の可否は警察が握っていることを自ら暴露してしまっている図でもあります。警察協議は道路管理者にとって悩ましいものであるにせよ、しかしこれをそのまま市民に向けて提示する神経にちょっと呆れてしまいます。
大阪府警は自転車の車道通行に関する規制に非常に慎重な姿勢で、現時点では府下において規制の伴う自転車専用通行帯は、高槻市内の2区間があるのみで、筆者確認の限りでは府道での実績は未だないようです。ただ、市道で可能だった以上、幹線路を担う府道についてはより可能でなければならないはずです。
整備対象について、まず現道の歩道幅員が3.5m以上ある道路は除外するとしています。「3.5mとは3.0mの有効幅員に防護柵や施設の設置部分の幅0.5mを加えた幅員」と但し書きされていますが、ではこの幅員構成以外で3.5mある場合の扱いなどが不明で、この但し書きは却って内容を曖昧にしているように思います。
いちおうは、自転車歩行者道指定の幅員として3.0m以上の幅員を規定する道路構造令(第10条の2第2項)が根拠かと思われますが。それにしても不思議なのは車輛の通行量を考慮する箇所が一切ないことで、府は単に歩道の幅が一定以下の道では自転車は皆車道へ降ろす、と言っていることになります。前回の当ブログもそうでしたが、通行空間整備における交通量の度外視も各地で進行している事態で全く呆れたものです。下の写真も最近整備された重幹線。
『緊急3か年計画』で整備された府道13号。かつての国道1号で、減少傾向とはいえ今でも1日4万台近い車両交通量がある。写真の箇所のように歩道幅が3.5m以上の区間もあるし、路肩に1.5mの通行帯が確保できる区間があるにもかかわらず、約4.5kmの区間を全て矢羽根で「整備」しました。
なおこの辺りは文章だけでなく、図を入れて一般の人々の理解を補うべきところでしょう。文章だけでは殆どの一般府民は何のことかわからないか、文書を読む気も起こさせない文面です。全般に、一般住民に示す計画文書として、図表の少なさと不親切さが目立ちます(他府県の文書も皆こんななのだろうか)。
『素案』6.3 整備上の工夫 より
①自転車通行空間の効率的な整備を推進するため、空間再配分は区画線による幅員構成の見直しや交差点などの局所的な改良(街渠の無い縁石への改変など)とし、必要に応じて検討することとする。
追記
〇整備区間200kmの明細を
市町村の自転車ネットワーク計画との兼ね合いがあるので示せないのはわからないでもないですが、整備区間200kmの明細は示してほしいものです。200kmという整備延長が示されているからには概ねリストアップはできていると想定されます。また殆どの府民にとって、具体路線の示されない計画は他人事に過ぎないでしょうから、これは計画の周知と関心度にも関わることかと思います。(大阪府自転車通行空間整備緊急3か年計画 事業箇所図)
〇「整備上の工夫」として示されている改変例
ライン導水ブロックという縁石部材を導入することで、車道左端部のフラット化を図る改良です。車道舗装部よりも傾斜を大きくせねばならないエプロン部(「街渠あり」の黒矢印の上の部分)を、縁石の内部に導水機能を持たせることで大幅に短くできるものです。これによって路肩部がフラット化され、段差解消や、安心して通行できる幅が広くなることによる実質的な拡幅効果をもたらすものなのですが、図ではその意味は伝わりません。
こうした図表だけでなく、文章も市民を意識した簡易な表現に練り直されておらず、意図が伝わらない、もしくは市民の関心を寄せにくい文書となっているのが目につきます。
〇 市町村との個別協議の期限
2025年度までとする当計画のなかで、ネットワーク計画策定についての市町村との個別協議がなぜ2011年度までなのか、この図だけで理解できる府民はいるのか、理解に苦しみます。
後記
当『素案』にある「安全確保」という語は、必ず「自転車と歩行者の安全確保」もしくは「自転車利用における安全確保」という形で用いられていて、「自転車の安全を確保」のように自転車と直接つなげらてはいない。「安全確保」は歩行者との関係でこそ配慮され、「自転車利用における安全確保」という用法には、自転車の利用によって発生する危険からの安全確保という含意が想起されます。
『素案』の全体、ないし府の自転車施策を覆っている、自転車へのネガティブなトーンが、こうした形でも裏付けられるかと。対応しきれない量の自転車に苦慮し、何とか既存の交通体系と施策の枠内に抑え込もうとしてきた行政の行き着いた姿でしょうか。こうした流れはもう行き詰まっていて、どこかでそれは反転されねばなりません。
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