吹田市の都市計画道路と自転車計画

 拙宅から自転車を漕いで10分ほどの所に、拡幅工事の進んでいる道路があります 。

 

 都市計画道路「豊中岸部線」といいます。

周辺図(元図:google map より)
周辺図(元図:google map より)

 

 現在は主としてJR京都線/東海道線の西側を走る大阪京都線と、同じくJR線の東側を走る十三高槻線の間をつないでいるだけですが、計画では図の現道よりずっと長い路線の道です(※)。よくある話ですが一向に進展のないまま、この状態が何十年も続いています。

(※)計画では大阪市を臨む神崎川の手前から千里丘陵を抜けて新御堂筋へ抜ける。上図と離れたところに別の整備済区間が存在します。

 

  やや長くなりますが、いま少し説明を加えておきます。

 

 この道路がつないでいる幹線路の十三高槻線は、国道171号とともに北摂(大阪の淀川以北)地域の主要幹線として期待されているのですが、未通区間(上図:赤の破線)が残っているため、広域幹線として機能しておらず、JR線の南方面の車の多くが、補助幹線の「大阪京都線」へ出るためにこの道へ流れ込んでいるのが現状です。

 

所定の規格で完成しているアンダーパス部
所定の規格で完成しているアンダーパス部

 十三高槻線の南方面には、工場や倉庫も多いため、豊中岸部線には大型車輛の混入も多い。 そのためもあってか基本4車線の設計となっているのですが、

 

 大阪京都線に接続する手前に整備の完了していない狭小区間が残っているため、やむなく暫定2車線で運用される状態が続き、地域の車輛交通のボトルネックになってきた箇所なのでした。    

周辺図・拡大(元図:google map より)
周辺図・拡大(元図:google map より)

 東海道本線の周りは戦前に遡る大阪の古い内陸工業地域ですが、物流を鉄道に依存した時代の名残りか、一帯を支える道路網は今もってツギハギの感が残ります。

車線幅も狭めです。
車線幅も狭めです。
道の先にある駅を目指して通勤・通学者が駆けてゆきます。
道の先にある駅を目指して通勤・通学者が駆けてゆきます。

 

  そのボトルネックが、ようやく解消されそうです。近いとはいえ筆者には利用度の低い道なのですが(アンダーパスは軽車両通行禁止ですし)、ドライバーさんらをはじめ産業関係者や事故の軽減、騒音や排ガス懸念の減少などさまざまな観点から歓迎される事なのは言うまでもないでしょう。

 


 

 すっかり前置きが長くなってしまいました。道路が広げられるのは結構なことに違いありませんが、やはり当ブログの関心は、それが自転車にとってどういうことかということにあります。

 

はたして現場へ行ってみると、自転車の通行位置を示すサインが目に留まります。  

 

 

 広い歩道の、車道寄りの約半分が白線で区画されて、自転車の通行部分を示す絵文字が描かれています。つまりこの整備によって、この道路の歩道が自転車歩行者道として整備されることが見てとれます。「やっぱり」かという気持ちと「残念」という気持ちが入り交ざります。

 

 ですが自転車歩行者道自体は珍しくもないものです。それで何が問題なのかというとこの場所が問題で、ここは吹田市内なのです。では吹田市内だと何がいけないのかというと、その理由はこちらにあります。  

吹田市 自転車利用環境整備計画 H29年度策定
吹田市 自転車利用環境整備計画 H29年度策定

 

 吹田市が、昨年3月末に策定した自転車計画です(以下『整備計画』と略)。

 

 放置駐輪や、利用マナー啓発といった、自転車を対策の対象としてのみ捉えてきた今までの自転車施策と違って、自転車をより積極的に活用する意図で作られた計画で、その中には自転車の通行環境整備が盛り込まれています。そしてこの計画の中で吹田市は自転車歩行者道について、

 

 「自転車の車道左側通行を促進させるため、原則として新たに整備は行いません。」

 

という方針を掲げているのです(『整備計画』p.63)。 

 

「整備計画」p.63、該当部抜粋
「整備計画」p.63、該当部抜粋

 

 この数年、各地の自治体で策定が進んでいるのと同様に吹田市も、国の「自転車は車道が原則」の掛け声のもと、車道主体の通行環境整備を打ち出していたのでした。 

 下は『整備計画』にある「自転車ネットワーク路線」と、そのリストです。

「整備計画」p.83(元図にマーキング、トリミング)
「整備計画」p.83(元図にマーキング、トリミング)
「整備計画」p.85(元図にマーキング、トリミング)
「整備計画」p.85(元図にマーキング、トリミング)

 拡幅区間は「岸部中内本町線」という市道名で出てきます。

 

  図から当該の路線の番号(№46)が、その番号によってリストからこの路線が車道混在(※)形式で整備予定の、優先度が6の路線だということが判ります。

車道混在とは、自転車の車道通行のための整備形態の一つで、自転車が一般の車とおなじ道路の車道を走らせるものです。ただし、文字通り混在というわけではなく、道路幅等にもよりますが、車道上の進行方向「左端」寄リや「路肩」と呼ばれる部分を走りましょうということで、大阪では下の写真のような主にブルーの矢羽根型のパターンと、ピクトサインの表示を路面に施します。近年どの地域へ行っても一つは目にするようになりました。 

 

豊中岸部線近くの車道混在路線(大阪京都線)
豊中岸部線近くの車道混在路線(大阪京都線)

  つまり豊中岸部線は、吹田市が矢羽根表示による整備の、しかも優先度6という、自転車ネットワーク路線のなかでも最も優先度の低い路線の一つに過ぎない道だったのでした。結果として、豊中岸部線に現れた自転車歩行者道は、 

市の策定したのと異なる手法と、優先順位を無視して 

整備されていることになります。

 

 ちなみに、吹田市の『整備計画』が策定された昨年3月からほぼ1年が経過した現在、整備が実現した路線は1路線のみでした。

 

初年度内に整備された唯一の路線、片山坂(市道朝日が丘片山線)。整備延長:600m余
初年度内に整備された唯一の路線、片山坂(市道朝日が丘片山線)。整備延長:600m余

 

 市は初年度に2本の通行空間整備を実施する、という話を伝え聞いていましたが、「予算が付かなかった」ため、このような結果なのだとのこと。吹田市の自転車通行環境整備は、出だしから何ともグダグダの展開です。 

 


豊中岸部線(岸部中内本町線)の拡幅部分についてあらためて見てみます。 

歩道整備完了部分
歩道整備完了部分
未着手部分。ケヤキは伐られてしまうよう。
未着手部分。ケヤキは伐られてしまうよう。

 広い広い歩道です。現道の悲惨な状況とは天と地ほどの差です。ネットで確認できる大阪府の資料(建設事業評価、H24年度)では、植栽を含めて8.25m(X両サイド)とあります(資料)。

 

 資料にはアスファルト舗装の歩道部の、植栽を除いた部分を、歩行者に3.25m、自転車に3mを充てる横断図が載っていますが、現場での印象ではほぼ等分しているように見えます。植栽の幅など若干狭めている可能性もあるかもしれません。 

 

   潤沢な幅員こそは交錯解消の最大の決め手、かもしれませんが、同時に自転車のスピード抑制を難しくします。スピードが出ても自転車と歩行者が区分を使い分けるならいいのですが、歩行者と同一平面の破線のみでの区画は、歩行者にも自転車にも通行分離を意識させる力が弱く、けっきょく錯綜は解消しないまま、歩行者が速度の増した自転車の脅威に晒される...といった事態は無数の例が示しているはずなのですが、相変わらずこうした設計は繰り返されています。 

  

自転車の通行部分は交差点の手前でいったん解除されるので、矢羽根が整備済の「大阪京都線」の連係など望むべくもない。
自転車の通行部分は交差点の手前でいったん解除されるので、矢羽根が整備済の「大阪京都線」の連係など望むべくもない。

 

 筆者は、当初の計画どおり「車道混在」で道路整備をやってくれ、自転車は車道が原則なのだから車道を走りやすくするよう矢羽根を引いてくれ、などと訴えるつもりはなく、むしろこのような大型車両も多い道路において、自転車ユーザーの危険度、負担度の大きい「車道混在」形式が採られなかったことに一抹の安堵を覚えているものです。ただ、これだけのスペースがあるなら、しっかりと構造分離の設計ができたはずなのに、と思うとまったく惜しい限りです。 


   しかし気になるのは、整備手法そのものよりも、市と府がきちんとした情報共有や摺り合わせをしていたのかという点です。

 

 豊中岸部線(岸部中内本町線)の優先度付けについて『整備計画』(P.70~79)を見て見ると、「駅へのアクセスルート」に加えて「自転車利用のニーズが高い集客施設等の立地が予定」という項目に掛かっていたのがわかります。評価8項目中の2項目ですし、市が事故発生面を重視しているためもあり、資料の限りでは最低の6という優先付けはとくに不当だったとも言えないところです。  

 

 ですが、豊中岸部線の沿道のJR線付近は、ちょうど旧国鉄の操車場跡地の再開発が進む地区です。「豊中岸部線」の拡幅が進みだしたのには、この再開発が大きく後押ししているだろうということは、地元の者であればごく自然に思い浮かぶことです。早朝の光景を撮った下の写真を見ても、いよいよ人の往来が盛んになりそうなのが見てとれます。

 

 

姿を現してきた建物群 国立循環器病センター
姿を現してきた建物群 国立循環器病センター
年内開業予定の駅前ビルと吹田市民病院
年内開業予定の駅前ビルと吹田市民病院

 

  ネットワーク路線の優先度が最低だったのは、評価でのスコアにそいつつも、当該路線の現実に鑑みて対応を最大限あと回しにする、限りなく保留に近い判断だったのではなかったのか、とも想像します。

 

 『整備計画』の策定会議に委員として参加していた大阪府茨木土木事務所(『整備計画』策定会議 名簿 )と市が、情報共有ができていたと仮定する限り、府の拡幅事業の時期がもし策定会議の時点で明らかだったのなら、豊中岸部線の扱いは違ったものになったはずです(少なくともそう思いたい)。逆に言うと、策定会議の時点では拡幅事業の時期はきわめて不透明だったのでしょう。

 

 しかし工事はH29年9月に開始されました(現地の看板より)。『整備計画』の策定は平成29年の3月なので、工事のゴーサインは、『整備計画』の策定から半年も経つかどうかの時期です。

 

 道路の図面は、おそらく工事のかなり以前からフィクスしていたのだと思われます(つまり歩道部分を自転車歩行者道とする設計が)。

 

ついては『整備計画』の策定からせいぜい半年も経つかどうかの、会議の記憶もまだ鮮明だったろう時期の拡幅案件について、府は市との協議の必要を認識したのでしょうか?

 

 

 繰り返しますが、その理由は吹田市が、歩道での自転車通行空間の整備はしない、という方針を出しているからです。

 

 事業を担当する府(茨木土木事務所)に、豊中岸部線の歩道に「自転車歩行者道」を整備するのは吹田市と連絡をとってのことなのかと問い合わせたところ、「吹田市との調整はできている」との返事を得ました。

 

 しかし応対の担当者の口調には、ごく単純に、歩道が広くなるからよくなりますよ♬ といったニュアンスもあり、残念ながら当方の意図は伝わらず噛み合っておらず、単に道路管理者として拡幅事業の次第は伝えている、といった意味での返事であったかと思われます。

 

   それに対して、吹田市への問い合わせでは、豊中岸部線(岸部中内本町線)で進んでいる工事が、市が策定した計画に沿った整備形態でないというのを「ご指摘の通り」と認める返事をもらいました。 「府は府で考えを持っていて、独自にやられている」と、半ばあきらめの様子も伺える返事でした。

※「」内の応対者らの発言は、正確な書き起こしではないことをお断りしておきます。

 

 やはり、摺り合わせは行われていないと思わざるをえない結果です。 

 

 正直のところ、そもそも策定会議に参加していた府土木事務所がその段階から情報共有をしていたかどうかについても疑いが拭えません。図面はかなり前にフィクスしていたのでしょうし、整備手法を変えるのであれば再設計に出さねばなりません。積算もやり直さねばなりませんし、ましてや構造分離型で設計するなら、相応の仕様改変とコストアップを覚悟せねばなりません。

 

財政のひっ迫を理由に道路事業に極めて消極的な大阪府。そもそもこの豊中岸部線も、JR線の南側にも残る狭小区間には手を付けていませんし、工事中の拡幅区間すら、両側ではない片側のみの整備です。経費増につながる再設計には消極的な姿勢だったろうことは十分推察されます。

 

駅の南側にもある狭小区間は手付かずのまま。
駅の南側にもある狭小区間は手付かずのまま。
整備延長:200m余、北詰め部分の車線を追加して右・左折振り分けにする整備。
整備延長:200m余、北詰め部分の車線を追加して右・左折振り分けにする整備。

 

 以上たかだか200メートルばかりの道路整備で、歩道に自転車の区分が設けられた、とガタガタほざいているのですが、敢えて申せば、これは自転車利用計画を策定した自治体(市町村)の、施策の実行主体としての在り方という課題だと言えば大袈裟でしょうか。

 

 いわゆる基礎自治体と呼ばれる市町村が、自転車計画の担い手だとする規定は、『安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン』の「本編」の出だし部分にそれに相当する記載がありますが、知る限りではそこだけです。

 

『ガイドライン』(改訂版)Ⅰ-1 (元図にマーキング)
『ガイドライン』(改訂版)Ⅰ-1 (元図にマーキング)

 

  しかしガイドラインは拘束力のない単なる推奨記述で、といって昨年成立した「自転車活用推進法」には、「地方公共団体の責務」として一応はあるようですが、かなりボカした表現です。また策定を促す記載はあっても、策定された自転車計画を、関係諸機関・団体(国、都道府県、警察など)が尊重し、保障する記載はどこにも見当たらないのです(見落としてるだろうか)。

 

 現時点では基礎自治体職員各自の意欲と、それを支える市民(市民団体や議員らも含めて)が頼みというわけでしょうか(というわけでこうして喚いていおります)。  

 

 今回は特に、読まれていて散漫な印象かもしれません、論点を列記しておきます。  

  • 初年度から「予算がない」と停滞する整備計画
  • その一方で、最も優先度の低い区間が、計画とは異なる手法で整備される不整合
  • 計画策定に参画した団体(大阪府)が、計画を尊重しない自転車計画の薄い存在感?
  • 策定された計画を尊重し実施を保証する規定のない現行制度
  • 計画を見守る市民・市議・市民団体の不在・無力

 

 自転車計画策定時には、市のあまりに安易な車道走行、矢羽根万能論への乗っかりぶりに呆れたものでしたが、今では担当職員らに心なしか同情を覚えなくもありません。これからも続く整備に向けて、なんとかモチベーションは維持していただきたいと願うばかりです。

 

 あと、もしこれを読んでくださった議員さんなどおられましたら、作った計画が只の紙切れにならないよう、しっかり活動のほどお願いしておきます。議員さん以外の方々も各自なりに何かを。自転車はまちづくりのコアになりうるキーワードです。