各地で進む自転車通行空間整備、北摂地域(大阪府の淀川より北の地域)では今のところ茨木が群を抜いているように見受けます。
やけに目立つあの青い矢羽根表示が市内の府道に登場したのが2年前の平成26年。
そこへ茨木市が『茨木市自転車利用環境整備計画』を昨年策定して、予定していた路線の整備が徐々に進みだしたようです。
これまで、あってもあちこちに散らばるばかりだった自転車の通行路が、いよいよタテヨコにつながって、ネットワークとしての姿を現しつつあります。
右は茨木市のネットワーク計画路線。このうちの赤の線が優先整備路線とされています(図はクリックで拡大します)。
優先整備路線:今後10年を期間とした計画(『茨木市自転車利用環境整備計画』2015年~)の前半5年とのこと。
この図に、現時点の整備済区間を重ねてみました。
図中、グリーンの線で示したのが整備済路線です。
路線がつながりだしているのがわかっていただけるでしょうか。
いよいよ姿を現しつつある自転車ネットワーク路線を、あらためて観察してみました。
上の写真は「西中条奈良線」奈良交差点付近。近年拡幅が完了した都市計画道路です。
矢羽根型のサインとピクトグラムを路肩にペイントして自転車の通行位置を明示するいわゆる「車道混在」といわれる整備形式です。
なお、なぜか茨木市ではこれを「自転車レーン」と呼ぶようで、ここでもこのエントリーに限っては市に倣って以下「自転車レーン」と表記することにします。
しっかりと盛るようなペイントです。路肩寄りの部分はクルマのタイヤが接しやすいので損耗が激しい。そのぶん厚めに施工されるのだそう。
北上して、さらに別の都市計画道路と交わる交差点(写真は北側から撮ったもの)。
この付近は彩都などと並ぶ茨木市の大規模な整備地区の一つ。交差点の南西側(写真右手)のビール工場跡地へ立命館大学が進出して、併せて防災公園「岩倉公園」などが一体開発されました。
四隅に建物がないので、実際の寸法以上に広く見える視認性に恵まれた交差点です。
ここで交差している東西方向の道路(茨木松ヶ本線)も優先整備対象路線ですが、まだ未整備です。
写真の交差点付近は整っているものの、西ではアンダーパス工事の、東へ進んだところでは拡幅事業の途中ですから、自転車通行路の整備は、おそらく工事の完成にあわせて行われるのでしょう。
ただし、西側方向の一部、大学のキャンパスに接する区間では、自転車の通行空間が既に整備されています。
こちらでは自転車道が採用されています。縁石を挟んで右側の青い舗装の部分が自転車の通行部分になります。歩道に接続していることからもわかるように、扱いとしては歩道で、歩道の一部が自転車用に確保されているというかたちですね(なので写真の標識に「自転車専用」の効力はない)。
道は大学の敷地に沿って延びます。JR線の手前でぐっと南(向かって左)へカーブします。
大学の駐輪場が道に面しています。駐輪場はここ1ヶ所に集約されています。
自転車の動線を厳重にコントロールしよう、という設計者の強い意志を感じます。しかいキャンパスへはクルマの乗り入れも禁止とのこと。地元との関係からか、交通アクセス全般に気を遣っているようです。
ここの自転車道は、かなりの幅員が確保されている(余裕で2.0m以上ある)ので、双方向でも狭さを感じずに走ることができそうです(新学期前の静かなキャンパスだったからピークとは程遠いのでしょうけれど)。
また歩行者部分との間が縁石で分離されていて、その縁石もごく低いので、囲われた空間を走らされるような圧迫感もまずありません。
自転車愛好者らの間では決して評判のよくない自転車道(しかも双方向)ですが、自転車のために確保された道の快適さを確実に実感できる区間ではないかと思います。
残念なのは、この道は実質的には限りなく立命館の駐輪場へ行き来するためのサービス路にすぎす、他の道との連絡が弱いことではないでしょうか。
岩倉公園前の交差点へ戻って北へあがります。
突き当たりで右へ折れ、JR茨木駅から東へ延びる道(茨木鮎川線、通称:東西通り)へ出ます。
この道は茨木市が最初に設けた「自転車レーン」です。
外側線を消した跡が見えます。「西中条奈良線」とはペイントの仕様が若干違うようです。まるでテプラのように「自転車」の字と矢羽根が途切れず交互に現れます。
上左:規制表示位置をシフトした跡 上右:自転車横断帯を消去した跡
乗用車はともかく、大型車が通るとちょっとムリを感じます。この場合、自転車はバスの後ろで待つところですが、せっかく車道を走っていた人も大抵は歩道へ上がってしまいます。この付近、街渠まわりのコンディションもあまり良くないので尚更です。
「車道混在」型の整備全般に申したいことですが、路肩部分の調査をして、せめて状態の悪い箇所だけでも補修するなり、できればフラット化するなどの事前整備をしてくれないものかと思います。ペイント処理だけでないちゃんとしたインフラ整備を願うものです。
阪急のガードを越えて「舟木町」交差点に至ったところで、ここで交わる南北に走る市道(通称:高瀬川通り)にも「自転車レーン」は続きます。
高瀬川通りは、南寄りの部分はそうでもないですが、市の中心部の一角である舟木町交差点付近は、幅員がやや狭いのか、交通量が多いのか、荷捌きの駐車車両も目立ち、自転車にとっては厳しい状況が頻発します。
クルマが少ないか、もしくは速度の十分に遅いところでは、自転車とクルマの車道混在通行は有効だろう。積極的に周知啓発して車道へ誘導したしいものだと思う。
けれども、しかるべき箇所では大胆な道路空間の再配分がなされるべきで、それができないうちは安易な通行空間整備は控えないといけないのでは。
安全・生死に関わることだから、「ガマンして注意して車道を走りましょう」などと言えるものではない。
自転車交通事故府下ワーストクラスの茨木なら尚更ではないだろうか。
もしこうした画一的な整備がこのまま進むなら、自転車のルールと実態の乖離は、以前よりも一層進んでしまうのではないか。そして、こうした実態が一般の認識になってしまって、自転車の通行環境の整備を人々が支持しなくなってしまいはしないか。行政が予算をつけて取り組むことを躊躇するようになりはしないか。そんなことを懸念します。
こちらは府道14号大阪高槻京都線(通称:産業道路)です。
大阪府(茨木土木事務所)の手掛けた路線です。茨木市が最初に手掛けた自転車通行路(茨木鮎川線)よりも少し前か、ほぼ同時期だったでしょうか。
こちらも路面標示による「車道混在」での整備ですね。ことし南へ延びて吹田市との境界付近(茨木土木事務所の管轄の南端)にまで達しました。今後さらに南へ延びる予定らしい。
※取り消し線の箇所は当方の誤認でした吹田市も茨木土木事務所の管内となります。(H28.5.29)
下は中央環状線(府道2号)沿いの区間。
「北大阪サイクルライン」という中央環状線に沿って続いている大規模自転車道の一部でもあります。
茨木市は、この区間を「暫定的整備」と位置づけています。
『ガイドライン』は規制速度の高い区間については構造的分離を施すことを求めていますから、規制速度60km/hの中央環状線では、これに対応せねばなりません。
たしかに対歩行者では視覚的明示にすぎませんが、しかし対クルマでは緑地帯で既に「構造的に」分離されています。歩行者に対して分離するとすれば、どんな改修をするのだろうか。むやみに柵を立てて「分離」とするのは避けてほしいものですが。
なおこの区間について別の疑問もあります。上の写真のように整備されているのは現状では中央環状線の南側だけで、もう片側はありふれた広幅員の自転車歩行者道です(下の写真)。
これに対してネットワーク路線の整備予定区間の図では下のように、中央環状の両側に線引きされてあります。現状を「暫定的」としているからには、こちら側はそもそも対象路線として認識されていない可能性もなくもありません。注意しておきたい不透明箇所です。
以上、茨木市の自転車通行路をさっと見てきました。茨木の市域には、たまたまこうした市以外が手掛けた自転車インフラがあったことから、それらを自転車ネットワーク路線に組み入れることで、整備実績の「下駄」をはくことができた格好になりました。
しかし茨木市の自転車通行路は今のところ、この中央環状線沿いと、立命館大の敷地周りの自転車道を除けば、全て「車道混在」形式での整備です。
市の計画では
「自転車ネットワーク路線の整備にあたっては、交通状況を踏まえ、自転車や歩行者の通行
の安全を確保するために、道路の一部を自動車交通から分離するなど、3つの整備形態(自
転車道、自転車専用通行帯、自転車レーン(車道混在型)を設定し、整備を図っていくこと
とします。」
とありますが、あらためて計画を見ると
専ら自転車レーン(車道混在)だけで整備を進めようとしていることがわかります。
それは優先整備対象路線に限ったことなのか。自転車通行空間の整備形式にはほかに「自転車専用道」「自転車専用レーン」があります。できるだけそれらを適用して少しでも自転車通行の安全通行を保証しようという区間はないものか気に掛かります。
なぜなら中環は規制(ガイドライン)があるのでやむをえず構造分離を施そうというわけで、あと唯一自転車道として存在する立命館大の周りの道は、既に見たように実質は大学の利用者を対象にしたアクセス路。しかも、市が自転車計画を策定する前から構想されていたものだし、土地も大学側が提供したもので、市はその申し出に乗ったまでのもの(参考)です。
そのほかについては、今のところ全て路面の表示(車道混在)で対応しようとしているわけです。
茨木市は、自転車の通行環境整備について、けっきょく視覚分離以上のことはやらない。
けっきょくそんな考えでしょうか。
茨木市だけでなく、先に見た府道14号(通称:産業道路)にも疑問があります。そこは自動車交通量のかなり多い道路ですから『ガイドライン』に準拠した限りでは「車道混在」形式は許容されなかったはずです。
こうして気になること、こんなものだったの?といった点が浮かんできたのですが、それらは、茨木市が計画を策定する過程できちんと内容をチェックしていれば、もっとずっと早くに把握できていたことだったでしょう。
具体が見えてきてはじめて「おいおい」と文句をつけるのではいつまでたっても状況の後手に回るばかりです。グズ人間の常套句かもしれませんが、しっかり知恵を付けて見る目を養っていなければならないなとつくづく思う次第です。
とはいえそれでも、自転車の(車道での)通行環境整備に行政が取り組むようになったのを、「前進」と見たい。そういう考えの方もおられるでしょう。自転車の環境整備に注意してきた人でもそれぞれに捉え方が違うのでしょうね。
以上、ひとまず現状を紹介したところで今回は一区切りにします。
より細部の気になった点などについて、近いうちにあらためて触れられればと思っています。
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田中 (土曜日, 15 7月 2017 10:37)
産業道路の自転車専用レーン(大阪府施工)が最初にできた頃は、塗装が凸凹で走りにくいことこの上なかった。またJR茨木駅から消防署間のレーンも同様に凸凹。それで、茨木市に苦情を言った。それが活かされたのかどうかは分からないが消防署と舟木町間のレーンはフラット塗装で走りやすかった。以後全部フラットになるかと思っていたらJR茨木と立命館大学間は矢羽根の重なりが凸凹。阪急茨木駅と平田台間も矢羽根凸凹で施工しだしたので「茨木市はフラット塗装で以後整備すると言ったのにどうなっているのだ?」と苦情を言うと「係り間の引継ぎ不備だった」というお粗末な顛末で阪急茨木駅と平田台間は工事途中からフラット塗装に施工を変更させた。市当局は自らレーンを自転車走行してみないので凸凹塗装がいかに走りにくく不快であるかということが分からないらしい。以下は最初に茨木市に送った苦情のメールです。(若干、現状と違う部分もあるが原文そのまま載せてます。)
茨木市の自転車専用レーンについて。最初に施工した産業道路は分厚い塗装(溶融式)の凸凹塗装で走りにくい。これについて市民からの苦情を受けて次の塗装はJR茨木と消防署間で施工されたフラット塗装(ペイント式により快適走行。2つの異なる施工方式を経て今後は茨木市の自転車レーン設置は自転車が走行しやすいフラット塗装(ペイント式)にするという回答を得た。ところが産業道路のイオン前を走ると道路のアスファルトの舗装し直しに伴い自転車レーンも塗装がやり直しされていたが、まったく依然と同じ分厚い凸凹塗装になっていた。画数の多い自転車の漢字も分厚い塗装で凸凹。自転車のピクトグラム、矢印も分厚い凸凹。青い矢羽根も中央部分が重なり凸凹。走りにくいことこの上ない。塗装やり直しについては当然フラット塗装になるはずが相変わらず凸凹塗装。茨木市役所の道路管理の係は作業の引継ぎが全く行われていない。何故このような施工ミスになるのか?JR茨木と消防署間以降の自転車専用レーンの塗装については、新規の塗装も経年劣化の補修の塗装についても、すべてフラット塗装にするということだが、何故この様な相も変わらず凸凹塗装になっているのか?即刻調査して回答してもらいたい。
ブログ主 (日曜日, 16 7月 2017 22:49)
田中さま コメントありがとうです。
自転車を車道に誘導する施策の主要な表現形である通称"矢羽根"。車と通行空間を共有するのですから、その表示は必然的に激しい摩耗にさらされます。なので行政はどうしても耐久性の高い、つまりトータルコストで有利な方式に偏りがちになるようですね。
また担当者の交替などで引継ぎがされたされないは行政にまつわる嘆き話の定番ですが、市民の声を聞き届けておきながらの結果は残念です。けれども、訴えのおかげで厚盛の路面表示が回避された区間があったのですね。相変わらず筆の重いブログ主も、飽きず懲りずに訴えを続けてゆきたいと思っています。