伊丹市の自転車ネットワーク計画から

伊丹市自転車ネットワーク計画(案)
伊丹市自転車ネットワーク計画(案)

 

今年の自転車に関するトピックの一番は、安全講習の義務付けを盛り込んだ道交法の改正だっただろうか。内実は運用の修正で、罰則はノータッチだったのにもかかわらず、しきりに「罰則の強化」と流布されたのに単なる誤認以上のバイアスを感じたのは私だけだろうか。

 

伝えられ方がどんなだったにせよ、ようは有効な取締りが増えて私たちの日常に変化をもたらしているのかどうか、なのだけれども。大阪でも施行後の摘発数が全国ワースト1という途中結果が報道されたし、その後も前年を上回る摘発数で推移している、とのこと。

 

私たちが自転車を利用し、道行く光景に変化は生じているのかというと、少なくとも現時点では、今までと何も変わっていない、と言っていいだろう。摘発が数千件に上がったところで、その分母は大阪だけでも億の桁にのぼる膨大なトリップ。件数の前年比など目くらまし。素人目にははっきりしなくても、統計では違いを示せる。そんなクレバーというか狡猾な力加減が、所詮は当局のポーズという下衆の勘繰りめいた邪推をもよおさずにいられない。信号無視も車道逆走も一旦停止の無視も、依然として路上で日々見かける光景なのだ。

 

 

ただ、警察・警視庁合わせて30万人を超す大組織の慣性は計り知れない。ある時点の運動状態に留まろうとする性質を慣性というが、それは逆に言うなら、いったん動きだせば止めがたく進みだすということでもある。いつか、変化が目に見える形に現れるのを、疲れない程度に期待し続けるばかりだ。

伊丹市自転車ネットワーク計画(案)より
伊丹市自転車ネットワーク計画(案)より

 

本題に移りたい。兵庫県の伊丹市がパブリックコメントの公募と合わせて自転車ネットワーク計画を作成してくれた。

 

頻繁には行くわけではないけれども、自宅から足を延ばせる地域に自転車通行空間の整備が進むのは単純に嬉しく、コメント資格もないのに中を覗いてみた。

 

整備総延長は54.8kmで、うち12.8kmが平成32年度までに整備着手する優先整備路線として位置づけ。整備形態別の内訳は自転車レーン14.6kmのほかは、自転車専用道、車道混在とも0km、自転車レーン以外は全て自転車歩行者道での整備となる。

つまり総延長の約1/4を自転車レーンに整備するほかは、残りはみんな歩道のままだよ、という計画でした。

伊丹市自転車ネットワーク計画(案)より
伊丹市自転車ネットワーク計画(案)より

計画づくりは、事実上の国の指針である『安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン(以下ガイドラインと略)』との関係は明確ではないものの、背景説明では触れられてあり、また専用道・車道混在の整備手法や、整備形態選定のチャートも図示されてあり、ほぼ「ガイドライン」に沿って進められたと見られます。

 

であるなら、歩道は車道の自転車通行空間の整備までの暫定措置と位置づけられるはず。ですが計画の12.8kmは「優先整備」とある。もちろん「優先」と「暫定」は意味が違い、将来的に整備形態が変更されるのではなく、この形態で整備しますという意味。また一般的に見て、専用道になるのでは?と思われる171号も、自転車も車も多く、事故も域内で最も多発しているのにもかかわらず歩道での整備という、とても"消極的"な計画になっている。

はたしてこれは規定のプロセスによる必然的な結果なのだろうか?という疑問が擡げてきました。

伊丹市自転車ネットワーク計画(案)より
伊丹市自転車ネットワーク計画(案)より

整備形態の選定フローをあらためて見ると、ガイドラインのフローに変更が施されているのに気づきます。

「ガイドライン」は、車の規制(もしくは実勢)速度と交通量をベースに整備形態を選定する。つまりスペース面などは度外視していったんは「こうあるべき」という形をまず選び、課題があるなら当面の形態を設定したうえで、あるべき形へ移行させる方策を別途検討しよう、という考え方。しかし、この伊丹市の選定フローでは、元のフローに「余剰幅員」なる条件、すなわち現状の物理的与件を付加している。

 

 

伊丹市自転車ネットワーク計画(案)より
伊丹市自転車ネットワーク計画(案)より

また「車道混在」からさらに先に「課題があり実施困難」という線が伸びている。振り分けの決着がついたあとに、更に線が付け足されるという奇怪なフロー図となっている。この矢印によって、いったんは車道混在に振り分けされた道路も、強制的にリダイレクトされたと思われる。

 

物理的与件は何であれいったんは「あるべき」形を選定しよう、という「ガイドライン」の考えを否定する選定フローとなっている。

阪急伊丹駅付近 -Google ストリートビュー
阪急伊丹駅付近 -Google ストリートビュー

 

これはどういうことなのだろうか。

”当事者には、必ずしもガイドラインの考えに沿う意向はなかったが、今や自転車環境の整備計画づりにおいてこれを無視して進めることはできず、全体としてはガイドラインに沿った形で文書をまとめた”

 

-とは浅はかな仮説と思いたい。 「ガイドライン」はその名の通りガイドラインであって、準拠を強制するものではないはず。

 

ただ、それでも策定の手法の、その一部を改変することに妥当性があるとすれば、そうした措置にいたる議論が市民も交えたステークホルダーの間にあって、かつその経緯が公開されていてこそではないだろうか。もしそうであったのなら、結果の如何に関わらず案は伊丹市のもの。ひいてはその結果と経緯は自転車の環境整備に関わる者たちで共有すべき事例になりうると思う。

 

しかしあいにく途中経過を記した文書(議事録、委員会資料など)がネットで見つけられず、役所も仕事納めの後で問い合わせも叶わなかった。できれば、あらためて問い合わせてフローの改変について確認しみたい。


 

同じく今月、ネットワーク計画の策定促進を眼目にした国の提言(↓)が公開された。

 

「自転車ネットワーク計画策定の早期進展」と「安全な自転車通行空間の早期確保」に向けた提言(案)に関する意見募集」

そのパブコメにおいて当方は、「そもそもネットワーク計画策定は加速させねばならないのか」という疑問を抱いている旨、へっぽこなりの意見具申をさせていただいた。

 

ガイドラインが策定されたこと自体は画期的なことで、自転車に感心を持っていた者たちの多くが長いあいだ望んでいたものの具現だった。けれども、なお頭ごなしの性格がある、ように当ブログ主は思う。財源の裏付けを欠いていることも、本当の意味で道路空間の再配分に取り組みたいと考える関係者を駆り立てるに至らせていないだろうし、ガイドラインそのものの欠陥を指摘する声も徐々に大きくなりつつある。またそれ以前に、自転車観の転換に対応しきれない人たちが、その理由をうまく表せないまま、無言の反抗をしている、という観が頭にきまとう。この伊丹市の件もその一つの現れなのではないか。

 

何とか年内に記事を追加することができた。ことブログにかぎらず、力不足を痛感した一年。

来年は、準備中の新しいマップについてまずアナウンスしたい。

 

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コメント: 1
  • #1

    ブログ主 (月曜日, 21 3月 2016 16:20)

    「伊丹市自転車ネットワーク計画(案)」のパブコメ結果が公表されています。
    意見提出人数 0人(よって意見件数も0件)とありました。

    なお当エントリーを書いた前後に市へ問い合わせたところ、
    「当計画案はこの上位の計画『伊丹市自転車の適正利用計画』に基づいて、
    市と道路管理者間で作成しました」という旨の返答をもらっています。

    つまり、この計画は市民の直接参画なしにつくられたわけで、
    まあパブコメへの関心のなさも当然かもしれません。
    自転車に関心のある者としてはただただ残念としかいいようのない結果です。