改正道路交通法施行の経過報道から

大阪府警HPより
大阪府警HPより

 

「危険行為」を繰り返す自転車利用者に安全講習を課すとした改正道路交通法の施行から一月が経って、経過を伝える報道が先週出回った。


6月の全国の総「摘発」数は549件とのこと。鳴り物入りで施行されたにしては、意外に少ない数だと感じたのは私だけではないだろう。

 

549件を単純に年換算すると6,588件。これは去年の総摘発件数8,070件よりも、千件以上も少ないペース。

警察庁発表資料より本人作成
警察庁発表資料より本人作成

この数年うなぎ登りで増加していたのに、むしろ大幅ダウンになりかねないペースだ。(グラフ)


けれどもこの数字のおとなしさは、街中を走行していての実感と合致する。6月初旬のころ、近所の交番に「道路交通法の改正の件で」と問い合わせに行ってみたら、応対した警官は「私はよく知らないから」と、すぐさま所轄の署へ電話をかけて私に受話器を手渡してきたくらいであったし、街で自転車の指導取締りに遭遇することすらなかったのだ。


新聞諸紙のなかで否応なく目に付いたのは読売の夕刊(7/11土曜付)。

 

夕刊ながら一面のトップで「キケン!20代の自転車」と、お得意の煽るような見出し。記事では、近畿と中四国での内訳として、年代別の件数をあげて、「若者のマナーの悪さが改めて浮き彫りになった」と若年層に非難の矛先を向けている。


 10歳代 26件(11.2%)、 20歳代  74(31.9%)、 計100件(43.1%)

  (※近畿・中四国計232件)


けれども数字をあげているのはこの二つの年代だけで、なお半数以上を占める30歳代以上の明細は伏されたまま。そもそも、10代や20代などの、若年層の交通事故に占める割合が高いのは、自転車に限らず、車や二輪でも同様の傾向なのに、スペースの都合があるのかもしれないけれども、読売の編集には強いバイアスが感じられる。


一方で、神戸新聞や毎日、産経の兵庫版は兵庫県警から以下の数字を伝えている。

 

 20歳代  17件(17.7%)、 40歳代  15件(15.8%) 、 65歳~  34件(35.4%) 


神戸新聞が「目立つ高齢者」と見出しを付けていたとおり、こちらでは40歳代やそれ以上の中・高齢層の比重が高いことがすぐに見て取れる。


地域によってバラつきがあるのは当然かもしれないけれども、総じて言えば、バラつきが出やすいのは分母である摘発件数自体がまだ小さい可能性があることと、おそらくは、取締りがかなり選択的に実施されているせいではないかと推察する。たとえば10歳代の件数の少なさにそれは伺うことができるのではないだろうか。

都道府県別では、最多の東京都(189件)以下3大都市圏の都府県が上位に並んで、上位6都府県で全体の9割近くに達している。日本の自転車が抱える課題は、都市問題の一つなのだということをよく示しているだろう。

大阪府警HPより
大阪府警HPより

行為別では、信号無視(232件)と踏み切りの立ち入り(195件)とで全体の約8割近くを占める結果に。「大阪府警は信号無視を中心に目を光らせている」と読売新聞は伝えているが、いわば一目瞭然の、難しい判断の不要な行為でもある。これには現場の警官の判断力が追いつかない事情でもあるのかと見るのは穿ちすぎる見方だろうか。

 

たしかに信号無視など、結果が重大な事象に直結する見逃せない行為だけれども、責任ある運転者としての自覚が極めて希薄だという、日本の自転車ユーザーの特性の現れに過ぎないようにも思える。

 

個人的には、歩行者専用道での通行や、車道逆送、車や歩行者の通行妨害行為など、もっと車両の運転者としての自覚を促す行為に目を光らせてもらえたらと願う。制度ができた以上は、これが摘発のための単なる手順に堕すことなく、同時に啓発としての機能をはたすことができるはずだからだ(摘発対象の危険行為14種は、裏返せば自転車の運転者として果たすべき諸事項と見ることもできる。その点でこれに選れた14種の行為はよく選ばれているのではないかと思う)。

なお兵庫県警が、総件数を95件と発表している。文章が煩雑になって恐縮だけれども、正確のために記しておく。この数字は、朝日や読売などが49件と伝えた兵庫県の件数と倍近くの開きなるが、これはどうも、発表時に未計上だった件数を厳密に除外してあったという事務手続き上の理由のようで、つまるところ95件が正しい件数と見られる。

そうすると(上記の事情が兵庫県だけだとすれば)、全国の6月の総摘発件数は595件と、一般に伝えられたよりも46件多かったことになる。いずれweb上に資料が公開されて、より確実に数字が把握できるようになるのを期待するが、どちらにせよ、摘発の件数がさほどでもなかったことに変わりはない。


これもあくまで個人的な推測と断って書くのだけれども、実施にあたって件数が大きく出過ぎないことに注意したがために、かえって件数が少なめに出てしまったのが、スタートひと月目の内実だったのではないだろうか。

これまでにも指摘されていることだが、自転車を本格的に取り締まるには、警官の絶対数が足りない。かりにそれでも現状のまま摘発を盛んにしたとても、今度は裁判所や検察といった関連機関が大きな影響を蒙るのは必至なのだ。


今回の法改正ないし制度改正も、摘発を加速するように見せて、実際には諸機関への影響に配慮した設計になっているのだろう(「3年以内に摘発2回」の規定は道路交通法にはなく、処分基準」という公安委員会の取り決めや、簡易裁判所との連絡調整のなかで形になったことなのだろう)。

おそらく当面は、このひと月目の実績などを参照しつつ、取締りの「力加減」を調節しながら、批判を招かない程度の摘発件数に調整してゆくのだろうか。


自転車を本格的に取り締まるには、赤切符に頼らない自転車版の反則金制度を構築することと、十分な人員を確保する策の両方が不可欠だろう。単純に警官を大量増員するほかに、たとえば各地の地域団体やNPOに、適宜取り締まり権限を持たせて共働するなどの方法もあるのではないだろうか。警察は地域の諸団体との連携を、本気で考えてみていただきたいものだ。