駐輪と施錠についての雑考

最近目にした記事などから思うことを書いてみました。

 

「ツーロック」してますか 草津署などが啓発活動」(中日新聞)

 

は草津市(滋賀県)の施策 家の戸締りと同じように、自転車にも2個以上のロックを奨励しています。

 

『自転車後輪用シリンダー錠無料取付キャンペーンを実施します!』→は、大坂市平野区の自転車盗難対策。

 

希望者には錠を無料で提供したうえさらに取付けもしてくれるというのですから、気前がいいというか踏み込んだ施策です。たしか去年もやっていたようです。

 

ただ自転車対策とはいっても「市内街頭犯罪発生件数「ワースト1」の返上に向けた取り組み」とあるので、どこまで自転車盗難を踏まえた対策なのかはわからない。

ひょっとしたら他の街頭犯罪よりも効果が見込めるがために自転車盗難対策を取り上げたのか、ちょうど街頭犯罪についての府警あげての不正が伝えられているところでもあり、つい穿った見方もしてしまいます。 

 

さらにお前は何様かとの誹りも予感しつつ言えば、上のどちらも対処療法で、けっして抜本的な対策ではないように思います。カギはいくつ付けていてもいずれ破られるし、自転車にのみ施錠をしている限り、持ち去られればそれまでなのです。

 

とはいえ現状の盗難対策は、とうぜん現状の常識から発想されます。古くからの悩ましい問題である自転車盗難には、たとえマンネリであっても少しずつ趣向を変えて対策を繰り出すことに意味があるのかもしれませんし、その取り組みにケチをつけるのが本稿の主旨ではないことをお断りしておきます。

 

さて先日、ふと出掛けた先で珍しいものを見つけました(左写真)。何が珍しかったのかというと、このコンビニに備えられたラックです。自転車用のラックが備えられているのです。場所は阪急の芦屋川駅前。

 

場所柄か、拙宅付近では普通に目にする子供乗せ3人乗り自転車などは見当たりません(傾斜地だし主婦のマイカー利用度も高そうな地域です)。

ペットの待機スペース この辺にも場所柄を感じさせられます
ペットの待機スペース この辺にも場所柄を感じさせられます

自転車は逸脱もなくみな行儀よく停めています。見た目もすっきりして何だかいい感じだと思ませんか。

 

それにしても、「自転車をラックに停められる」というそれだけのことが珍しい景色になってしまうというのは、この国の不思議な自転車事情です。じつは小生、かつてこのようにラックを備えた店を大阪の鶴見(こちらもコンビニ)で見かけて、それをとあるコンテスト(まちなか自転車空間コンクール)に送って、賞まで頂戴したのでした。

自転車を停めるという基本的なことについて、一般的でないけれどもまともな設備を備えてくれているお店があったということが嬉しかったですし、それが自転車の「いいね!」として認められたわけです。

 

ところが、後日そのコンビニを訪ねてみるたとき、実はそのラックは同じ建物の住人専用であることに気づいたのでした。気づいた、というか見落としていたのが判明したわけですが、コンテストからは年数も経っていてもう時効(?)だろうかなどとと思いつつ気には掛けていたのでした。

 

なので今度の発見は個人的になお更うれしくもあるわけです。今回見つけたラックはたしかに来客用のようです。適正な利用を呼び掛ける紙が貼られてありました。

ご存知のとおり日本の駐輪場の大半は、自転車を「停めてもいい所」というだけのものであって、決して「自転車を停めても安全です」という所ではありません(長時保管が前提の定期利用の駐輪所や民間の自転車預り所とは別の話です。ここで言おうとしているのは、例えば一般の商店や事務所が来客用に用意している駐輪場のことです)。

 

日本でいちばん普及している自転車である「軽快車(ママチャリ)」は、「実用車」の後裔なのだろう、と小生は観ています。ギア装備や軽量化といった運動性能の軽視の一方で、スタンドや荷台を必須装備としてきたことは、実用車の要件という観点から見ると自然に了解されます。「安上がりで、生活に役立つ」実用品であることこそ、日本人が何より自転車に求めてきた基本要件でしょう。「役に立ってなんぼの自転車、あたりまえやろ」と、当然のように思われるかもしれないのですが、諸外国を見渡すと必ずしもそうとは限らないのです。

 

スタンドが必ずあるのですからとうぜん自転車は自立するわけで、駐輪のためのラックは必要とはされません。それに加えて日本の治安の良さがあり、さらに自転車の安さが加わってスペースさえあればよしとする日本の駐輪場観が成立したのではないだろうか。

現在の自転車をめぐるインフラ総体の貧弱ぶりからすると「ラックを備えよ」というのはまだまだないものねだりと見なされても致し方ないかもしれません。まあそれは承知のうえで書いてみたのだけれども、本当に治安が悪くて盗難が切実な問題なら、自転車が貴重な財産であるなら、駐輪の際には必ず何か「動かないもの」に結わえようとするのではないでしょうか。いくら頑丈な錠で施錠しても「持ち去られてしまっては」お手上げですから。いわゆる「アースロック」こそ諸外国では当然の原則です。

 

「駐輪可能な場所」でしかない駐輪場と容易にこじ開けられる錠には、それらを成り立たせているライフスタイルがあって、盗難問題をエンドレスの課題にしているのでは。自転車への注目が確実に広がりと深化を見せている今日、私たちの自転車との付き合い方も、少しずつ見直していけたらいいなと思うのですが。